書籍内容の紹介
地域金融機関のデジタルトランスフォーメーション
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- 北國銀行が進めるデジタルフォーメーションは、単なるIT化ではなく、組織の在り方そのものを変革する挑戦です。システムの自立化、クラウド移行、人材育成、アジャイル開発、そして地域金融エコシステムの構築まで、各章では具体的な事例と実践が紹介されています。これらの取り組みは、地域金融機関が未来に向けてどう進化していくかを示す貴重な記録です。
- 発刊:2021年
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第1章:システム戦略の転換と自立化への挑戦
北國銀行は、2000年代初頭から続けていたシステムの外部委託から脱却し、自社での開発・運用体制の構築に踏み切りました。これは単なるコスト削減ではなく、顧客ニーズへの迅速な対応、開発品質の向上、そして組織としての自立性を高めるための戦略的な決断でした。クラウド移行やインターネットバンキングの開発など、具体的なプロジェクトを通じて、銀行業務の根幹に関わる部分を自らの手で作り上げる文化が醸成されました。外部任せから「自分たちで作る」への転換は、行員の意識改革も伴う大きな挑戦であり、組織全体の変革を促す原動力となりました。
第2章:クラウド移行とオープンシステムへの対応
勘定系システムを含む主要システムをMicrosoft Azureへ移行するプロジェクトでは、IaaSからPaaSへの段階的な移行を進めています。VMの不具合対応やクラウド特有の運用課題にも直面しながら、Microsoftとの連携で乗り越えてきました。100以上あるサブシステムの統合・内製化も進めており、xRMの活用によって柔軟性とコスト削減を両立しています。クラウド上で銀行業務を支えるという構想は、単なる技術導入ではなく、地域金融機関としての競争力を高めるための基盤整備でもあります。クラウド移行は、セキュリティ、可用性、スケーラビリティの面でも大きなメリットをもたらし、今後の地域連携やエコシステム構築にもつながる重要なステップです。
第3章:人材育成と組織文化の変革
システム部門では、KITとの連携による新卒採用や、paizaを活用した中途採用を通じて、技術力のある人材を確保しています。若手社員が主導するインターンや、クラウドAIをテーマにしたハッカソンなど、実践的な育成施策が豊富です。また、Teamsを活用したフラットなコミュニケーション文化が根付き、心理的安全性を重視した組織風土が形成されています。技術者が育ち、自由に意見を言える場が整うことで、開発のスピードと品質が向上し、組織全体の活力にもつながっています。さらに、非システム部門の行員にもIT教育を施し、全社的なデジタルリテラシーの底上げを図っています。
第4章:アジャイル開発と業務部門との連携
アジャイル開発の導入により、業務部門の行員も研修を受け、プロジェクトに積極的に関与するようになりました。インセプションデッキやトレードオフスライダーを活用し、目的や優先順位を明確化。CI/CDやテスト自動化も進め、品質とスピードを両立しています。業務とシステムが一体となって開発する体制が整うことで、顧客ニーズへの対応力が飛躍的に向上しました。また、開発現場では「失敗を許容し、迅速に回復する」文化が根付き、挑戦を促す風土が醸成されています。アジャイル開発は単なる手法ではなく、組織の在り方そのものを変える力を持っています。
第5章:地域金融エコシステムの構築に向けて
北國銀行は、クラウド上で稼働するソフトウェアを地域金融機関と共有し、自治体・学校・医療機関などとのデータ連携を通じて、地域金融エコシステムの構築を目指しています。2024年までにサブシステムの9割以上をクラウド化し、勘定系のPaaS化を進めることで、開発体制や手法の抜本的見直しを図っています。地域全体を支える金融インフラをクラウドで構築するという構想は、単なる銀行の枠を超え、地域社会の活性化に貢献するものです。BaaS(Banking as a Service)やAPI連携、AI活用などを通じて、地域の多様なニーズに応える柔軟なサービス提供が可能となり、金融の枠を超えた価値創造が進んでいます